王子様と灰色の日々

王子様と灰色の日々(1) (KCx ARIA)

データ

作品名

王子様と灰色の日々

著者

山中 ヒコ

巻数

全4巻

出版社

講談社

掲載誌

ARIA

出版年

2011年

おすすめ度

★★★☆☆

なるべくネタバレなしの紹介

ヒロインの敦子は父子家庭で貧しく、売春まがいのことまでやって生活しています。あるとき、敦子は自分に瓜二つな至とその取り巻きである遼・信也と出会います。彼らは敦子とは対極的に、大金持ちの御曹司でした。特にリーダー格である至は財閥の跡取りで、傍若無人な振る舞いで敦子をさらって自宅へ持ち帰ります。自宅とは言っても、敦子の住んでいるボロアパートとは比べ物にならない立派な建物で、敦子にはそれが宮殿のように見えました。裸足のままで逃げ出した敦子を信也は追いかけ、自分の靴を差し出して履かせてくれます。   後日、遼が敦子を訪ねてきました。至が失踪したので、顔立ちがそっくりな敦子に身代わりになってほしいというのです。近々、至の元服式が予定されており、それまで至として生活をしてほしい、と遼は頼みます。敦子は信也への好意ゆえに、その役目を引き受けることに決めます。宮殿で何不自由ない暮らしを送っているように見えた至は、なぜそこから逃げ出したのでしょうか。こうして敦子は王子様の服を着て、宮殿で暮らすことになったのでした。至が失踪して敦子が代役を務めていることは、遼しか知りません。遼は、至としての振る舞い方や話し方、テーブルマナーやダンスなどを敦子に叩き込み、口は悪いながらも常に敦子の側でフォローします。   敦子はその生い立ちのため、人との関わりに苦手意識をもっており、人に触れるとアレルギーでじんましんがでてしまいます。至として生活する中で、人に触れられてじんましんを起こすこともたびたびあります。それでも敦子が宮殿にいることを選び続けたのは、バイト代でもらえる100万円のため……もあるのですが、生まれてはじめて、対等に扱われ認められるという経験をしたため、でした。宮殿で至・遼・信也を中心に好意と悪意が交錯する中、敦子はどのような運命をたどるのでしょう。そして、失踪した至はいったいどこに行ってしまったのでしょうか。  

小ネタ

表現について

女装趣味と性同一性障害と同性愛はまったく別物なのですが、同一のものとして扱われている表現が見受けられます。作者の山中ヒコはボーイズラブ作品も描いている漫画家で、そういう方はこの手のデリケートな表現には非常に気を遣う場合が多いのに、珍しいミスですね。巻末に、「表現は年代や状況を考慮し、コミックス発売当時のまま収録しています」と注意書きがありますが、おそらくこのためだろうと思います。  

キャラクターの描き分け

Amazonのレビューで、顔の描き分けができていないので誰が話しているかわからない、という批判がありました。確かに絵は荒削りな印象ですが、どういう場面かわかっていれば見分けがつかなくてストーリーが把握できないということもないと思います。絵は丁寧ではありませんが、私は好きです。         以下ネタバレあり!                

ネタバレありの感想

1巻を読んだ時点では、おもしろそうだけど敦子の家庭環境や至の傍若無人な態度が気になって、読むのが辛いかもしれないと思ったのですが、杞憂でした。読み進めるうちに、1人1人がそれぞれの悩みを抱えて苦しみ、そして大事にしたい誰かをもっているということが明らかになっていきます。   私が漫画を評価するときの基準として大きなウェイトを占めているのが、
  • 登場するキャラクターみんなが、悪意がないこと
  • 登場するキャラクターみんなが、幸せになること
の2つです。「王子様と灰色の日々」はこれらを満たしていて読後感がよく、あたたかい気持ちになれる作品です。   至は女装癖があり、こっそりクローゼットに女物の服を隠し持っています。敦子をさらったのも、彼女からセーラー服をかりて着てみるため。自分と瓜二つの敦子がセーラー服を着ているのに自分は着られない、という環境への不満が爆発し、家を飛び出してしまいます。   至は自分のことで手一杯なのですが、信也はその至に対する気持ちをずっと秘めています。至に女装癖があることも知っていて、「遼も知らない至の秘密が欲しかった」と歪んだ気持ちを敦子に告白するシーンがあります。信也ははじめ敦子が好意を抱いた相手だったので、ここで信也の気持ちが敦子ではなくはっきり至へ向いていると明かされたのがこの作品の前半のターニングポイントだといえます。   信也の気持ちが明かされるとほぼ同時に、常に敦子の側でボロがでないように見張っていた遼にも変化があらわれはじめます。敦子への気持ちに気づいて戸惑う遼、いじらしいです。 さていよいよ元服式ですが、すらすらと参加者の顔と名前を一致させる敦子とまったくわからない至の対比、そこから至が幼少時の記憶を頼りに自分が本物の乃木至であることを示す場面は、まるで映画のクライマックスのようです。女装癖があることがわかっても、至が家族や参加者から受け入れられるくだりがあまりに安易だと思いますので、そこで評価を☆マイナス1としました。至の祖父はともかく、母親は前半で至にひどい態度だったのに、最後の大逆転は説得力がなさすぎます。登場するキャラクターみんなが幸せなラストシーンは好きだし評価するのですが、そこに至る道程に説得力があればよりよかったと思います。3巻までが非常によかったので、4巻での失速が残念です。
完全版の他に、元のコミック版がKindleで入手できます。最終巻4巻は、2013年8月に発売されています。

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