Contents
データ
作品名
Kの葬列
著者
楠本 まき
巻数
全2巻
出版社
講談社
掲載誌
マーガレット
出版年
1994年
おすすめ度
★★★★☆
なるべくネタバレなしの紹介
物語は、葬儀の場面から始まります。Kという詩人が死んだので、Kの住むアパートの住人たちによって葬式が行われているのです。そこに、少年ミカヤが通りかかります。少年はそのアパートの301号室に引っ越してきたと自己紹介します。301号室は、Kが生前住んでいた部屋でした。
アパートの住人たちは、変わり者ばかりです。少年はアパートの人々と話すうち、実はKの遺体が行方不明だということを知らされます。もしかしたらまだKは生きているのではないかと問う少年ですが、アパートの住人たちは彼は死んだことを確信しているようです。どうやら、住人たちはそれぞれ、人に言えない秘密を隠しもっている様子。Kは本当に死んでいるのか、だとしたら遺体はどこに、誰が隠したのでしょうか?妖しいな雰囲気が漂う、異色の物語です。
独特の退廃的・耽美的な雰囲気で、カルト的な人気を誇る一作。ハマる人はがっつりハマると思います。出てくる人物の名前は日本人の名前ですが、外見は西欧人風です。葬儀もキリスト教式です。マザーグースやアガサ・クリスティーを連想させる部分が多くあり、イギリス文化の影響が濃い作品です。ちなみに作者の楠本まきは、2001年頃からイギリスのロンドンにも拠点をおいて活動しているそうです。エッセイ集「ロンドン A to Z」も出版されています。
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メモ1
著者の楠本まきは、マーガレットに連載された「Kissxxxx」が代表作だと言われています。xxxxはスラングで、いわゆるキスのことです。当時にしては珍しい、ロックバンドの恋愛ものです。初期の作品だけあって、おとなしめです。これに比べると、「Kの葬列」や「致死量ドーリス」などは、更に前衛的で、楠本まきワールド全開です。
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メモ2
この作品はいくつかの短編から成っています。
- 螺旋(アパートの住人の一人、モルクワァラ回収人の話)
- Kの葬列(本編)
- Gの昇天(詩人の生前の話)
- utero(本編でスキップされた核心部分)
- intro.(一連の話の発端になった、詩人の幼少時代の話)
本編だけではいささか消化不良な印象が残りますが、他の話を読んでいくと残された謎が解けるようになっています。「Kの葬列Ⅰ・Ⅱ」は現在絶版のため、「楠本まき選集 1 」ですべてまとめて読むことができます。
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以下ネタバレあり!
ネタバレありの感想
個性豊かなアパートの住人たちは、でてくるだけで8人います。
- モルクァラ回収人の若者
- 鰐淵(技師)
- 魚住(風呂が大好きでいつもゴーグルをかけている)
- 肉屋
- 人形師の女
- 少女とその母親
- 少年ミカヤ
それぞれが、Kの死に関して断片的に何かを知っていて、それを隠しています。まるでアガサ・クリスティーのミステリを読んでいるように、彼らが少しずつ関与してKの遺体消失をつくってしまったわけです。そしてだからこそ、死体はなくても誰もがKが死んでしまったことを疑わないのです。
ミカヤと詩人が実は元々旧知の間柄であることがところどころ伏線をはられているのも見どころです。また、本編「Kの葬列」では最後まで明かされなかったKのパズルリングの最後の1つに関する話も、私は好きです。ミカヤは実際は、詩人の一面しか見ていなかったのかもしれませんね。それでも、ミカヤと詩人の最期はあれでよかったのだろうと思います(アパートの人たちは掃除が大変だったでしょうが)。
モルクァラとは?
「Kの葬列」の序章として、まずモルクァラ回収人の話が出てきます。モルクァラとは何かについて、全く説明はありません。全編を読めばわかるのかと思いながら読んでも、最期まで説明なし。Kの遺体以上に読者が気になるのが、このモルクァラだろうと思います。
作中から、
- 手の中に収まる、小さい卵くらいのサイズ。小石のように丸い。
- 色は白?(魚住の1コマだけ、赤く着色されている場合もある)
- モルクァラ回収人が、アパートの住人のところに毎日回収にやってくる
- 回収されない場合、モルクァラが溜まって住人(魚住)が困っている
- モルクァラ回収人の箱から落ちたモルクァラは、跳ねて元の住民たちの部屋に戻っていく
ということが伺えます。楠本まきは、モルクァラになんの寓意を込めたのでしょうか。それとも、実はまったく意味なんかないのでしょうか?
耽美生活百科は、楠本まきの哲学が込められた百科事典。ファンなら必携です。コーラスに連載されていたので、作家陣もちょこちょこ出てきていました。今読むと懐かしいの一言。
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